教育時報社

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≪論点≫
大学個々の理念やポリシーを制約
TOEFLやTOEICの導入なぜ各大学の選択に任せない


<「きょういく時報」15.1.18 729号掲載>


 大学入試改革をめぐる中教審の動きとは並行して、「英語教育のあり方に関する有識者会議」が立ち上げられ、大学入試の共通テストとして、英検やTOEFL、TOEICなど外部試験を代替・導入しようと論議が行われている。


「教育改革」の視点はどこに?

 有識者会議の担当課とされるのは、文科省初中局国際教育課。座長は吉田研作・上智大教授。

 吉田氏は、1974年に上智大学で文学修士を修め、現在上智大学言語教育センター長。2005年には、ベネッセ・コーポレーションのバックアップで「東アジア高校英語教育調査」などの実施報告書もまとめている。

 また、有識者会議の委員には、三木谷浩史・楽天株式会社代表取締役社長兼会長、安河内哲也・一般財団法人実用英語推進機構代表理事(東進ハイスクール講師)、多田幸雄・株式会社双日総合研究所代表取締役社長などが名を連ねている。

 委員の一人、安河内哲也氏も上智大学のOBで、東進ハイスクールの“英語の看板講師”とされる。

 昨年11月に開かれた国立大学協会主催のシンポジウムでは、安西祐一郎・中教審会長が、「英語の問題については『大学入学希望者学力評価テスト』において、これまでの教科型の英語が民間の資格試験等々(※)で代替されることになるだろう。民間の資格試験を活用することについては有識者会議で結論が出ている。が、この流れで(中教審の)高大接続問題を考えると、教科型の英語を実施しないことになるのかなと思うが、答申が出ていないので決定ではない」と語っている。

 この春には、次期中教審の委員選任が行われる予定だが、より“安倍色”の強い人事になることがささやかれている。

 教育現場に目を向けると今、小中学校からの教科内容の積み残しが問題になっている。学習指導要領による教科内容の“縛り”が、使いづらい教科書を生んでいる現状も指摘されている。学習指導要領の運用など重要度の高い論議は、なおざりにされているようにも見える。

 TOEFLやTOEICを共通テストとして導入する案には、採点・評価の方法や受験に関する情報の公平性など、誰がどのように保障できるのか、疑問を呈する教育学者の声が多く聞かれる。


“教科としての英語”がめざすもの

 大学個々のアドミッション・ポリシーの明確化を求めてきた文科省。TOEFLやTOEICを必要に応じて個々の大学が個別入試で導入したり受験生に選択させたりすることは、教育理念やアドミッション・ポリシーから考えて至極当然なことだが、全国一律に導入することは、大学個々の理念やアドミッション・ポリシーを侵害する行為にも等しいといえる。

 “教科としての英語”には、論理性と同時に英語力を鍛えていくという、日本人に必要な教育としての一側面がある。共通テストとしてのTOEFLやTOEICの導入によって、そうした部分は一体どうなっていくのだろう。「はじめに結論ありき」の動きは、英語という一つの教科にとどまらない、教育の混乱を予測させるものではないのか。

※編集注:英検、TOEFL、TOEICなど


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